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8%となるので、変性疾患の患者が増加し、血管硬化からくる高血圧、卒中、虚血性心疾患、糖尿病、関節炎、骨組髭症や視力障害、難聴等に対する予防や治療に力を入れる必要がある。
血管硬化に対しては、最近、食事療法、薬物療法ともに急速に進歩が見られ、脳卒中、虚血性心疾患の罹患率および死亡率ともに改善されてきたが、日本では米国に比較して脳卒中の罹患率は相変わらず高く、がん罹患率と並んでいる。また、虚血性心疾患の罹患率も欧米式食事の普及、すなわち肉類や脂肪食の増加により急増してきて、米国の罹患率の減少と相まってその半分近くになってきている。
これらの患者に最もたいせつなことは、まず罹患予防であり、発病後の治療で患者のQOLの向上は可能であるが、死亡率に大きく影響を及ぼすことは不可能である。たとえば私どもの発案した冠動脈バイパスやグルンジックPTCA(経皮的冠動脈バルーン拡張術)による死亡率の改善は、食事療法や薬物療法による高血圧症の治療や禁煙等による罹患予防に比較すれば、その貢献度は少ない。しかし狭心症状等の改善による患者のQOL改善の上では大いに役立つ。QOL's(QUALITY AD JUSTED LIFE YEARS)の上から見れば、1本の冠動脈の場合は0.5年、2本なら1.1年、3本なら3.2年、左の主冠動脈なら6.2年と計算されている。また狭心症状(胸痛)そのものの改善は0.7年とされている。内科療法自身は0.2年であり、外科療法よりQOLの改善は劣っている。
死亡率そのものの減少に役立つのは米国では禁煙により39万人、節酒により10万人、また適当な運動を行うことによって40万人も変性病、がん疾患から救済ができるとの推計もされており、予防が老人病にとっていかにたいせつなものであるかがあげられる。日本では喫煙率が相変わらず高く、米国の2倍に近いことは一般教育の不足が原因と思われる。
人口老齢化によりことに問題となるのは老人性痴呆症の増加である。ことに日本は人口老齢化が先進国の中でも最も早く、また2025年には世界で最長寿国となる。
老人性痴呆症は80歳以上老人の4分の1が冒されるので、患者はもちろん周囲の家族のQOLおよび老健介護施設に対する影響は大きいので、その早期診断法と治療法の発見は急務である。先進国の老健施設の収容者の3分の1以上が痴呆症の患者で占められている。
エイズが世界中に蔓延し、ことにアジア地域は2000年には蔓延度が最も高く100万人を超えるが、米国における最盛期はすでにすぎている。予防ワクチンと治療薬の開発は来世紀のはじめまでは望めないので、国民のQOLの維持のため日本も予防策に力を入れる必要がある。

 

医療から福祉への視点

21世紀に入ると、国民のQOLの維持に必要である医療年金、福祉の割合のうち、医療の占める範囲が次第に減少し、年金が医療費の1.5倍、そして福祉も医療費の半分を占め、2:3:1の割合になるので、医療費以外の国民健康維持費、老齢者保護費に対する国家的対策が必要である。日本ではこれらの点で米国に対して遅れが見られる。米国も長期ケア保険の運営は難航しているが、老健施設、在宅ケアの部門では日本が学ぶべき点が多くある。
日米の医療施行のQOLに与える影響を述べる前に、まず日米の医療制度についての違いを調べる必要がある(表2)。米国の医療制度は根本的にはごく最近まで自由診療であるが、日本では早くから国民皆保険制度による出来高払いを導入したので、比較的平等な医療が一般に行き渡っている。米国では無保険者およびメディケイド(困窮者保険)が国民の25%を占めており、これらに対して厳しい制限医療を施行せざるをえない。国民全体の12%を占める政府管掌保険のメディケア(老齢者、身障者保険)も最近次第に制限医療一括払いの傾向が増大している。さらに医療費削減

 

 

 

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